今日もまた。

月もない闇夜を、仄かな光が浸蝕する。

 

(……………太陽が、なくなってしまえばいいのに)

 

ずっと夜ならば。

ずっと光が届かない世界ならば。

お前を抱きしめて眠りつづけていられるのに。

 

 

腕の中で眠る少女の瞳がぴくりと震え、微かな吐息を吐き出す。

どんなに紗で遮っても、どんなに天蓋をぴったりと閉じても、彼女は必ず目を覚ます。

朝議。

それは太陽が昇る頃に始まり、まだ小暗い頃に人を宮城に呼び起こすもの。

それは王もまた同じく、胎果の彼女とて例外ではない。

美しい翡翠色の瞳に去り難く愛惜の波をたゆたわせながら、彼女はこの胸の中から

抜け出していくのだ。

 

空は真珠を溶かし込んだかのように白く、淡く輝き始めていた。

もうすぐ日輪が黄金の光を雲海とこの世界の上に投げかけるのだろう。

息を詰めて見つめる先で、少女の瞼がまた震えた。

敷布の上に流れる紅色の髪は咲き乱れる曼珠沙華のよう。

手を伸ばし、触れるか触れないかのぎりぎりで白い輪郭をなぞる。

手の影が気になったのか、少女は少し眉を寄せる。

不意に。

少女の緑の瞳が開かれた。

凝視して想像していたにも関わらず、その美しさに思わず息を飲む。

「………楽俊?」

甘やかな落ち着いた声音。

翡翠にも似た宝玉の瞳は穏やかに笑みを浮かべている。

「どうしたの? ずっと起きていたの?」

「いや……」

楽俊はそっと小さく首を振った。

ずっと、夢を見ていたのだ。決して叶うことのない夢を。

「もう夜明けかな? 起きて朝議の用意しなくちゃいけないな」

陽子は名残を惜しむように楽俊の胸に額を押し付ける。

「楽俊はもう少し寝ていて。私は行って来る」

 

…………太陽がなくなってしまえばいいのに。

 

「陽子…………」

身体を起こそうとした陽子を、楽俊は抑えた。

「……楽俊?」

驚いたように目を瞠る少女の腕を強引に引き寄せ、楽俊は陽子を動けないように

きつく抱きしめた。

「楽俊! 痛いよ…」

苦痛の悲鳴をあげる陽子に構わず、楽俊は陽子に深く口付ける。

貪るような、深いキス。

身じろぎ一つ出来ず、陽子は僅かに眉を顰める。

陽子は抵抗はしなかった。けれど、困惑の表情は隠さない。

その貌に、楽俊の表情も曇った。

陽子を臥牀の中に引き戻しながら、楽俊は低く呟く。

「陽子は、おいらと、国と、どちらが大切なんだろう?」

「…………………!!」

翡翠の目が、大きく開かれる。

「楽俊………」

陽子が泣き出しそうに顔を歪めた。

「そんなの、選べない………。国を傾けると、楽俊を想うことも出来なくなるんだから」

 

どうして、

どうして。

どうして?

 

ただ、愛する人を抱きしめていたいだけなのに。

ただ、その心を独占していたいだけなのに。

 

「お願い、楽俊。分かって…………っつ!」

昨夜つけた所有印に、さらにきつく印をつけた。

陽子のすべらかな肌に印を残す。

それは確かに陽子を愛している証。陽子が愛されていると感じる場所。

それは麒麟の誓約にも似て。

「やだ、楽俊………!」

陽子の身体がほんのりと上気する。

いやいやと少女は首を振るが、楽俊は構わず、陽子の感じやすい場所にキスの雨を

降らせた。

「楽、俊……」

陽子の声が僅かに変化した。

強い光を宿す瞳は涙に濡れて潤んでいる。

「おいらと国と、どっちが大事だ?」

「そんなの、選べない………っ!」

翡翠の宝玉から涙が盛り上がる。

「もし、国が傾いても死なずにすむとしたなら?」

楽俊の問いに陽子はふるふると苦しそうに首を振った。

溢れた涙が頬を伝って流れ落ちる。

 

陽子。

陽子。

お願いだから優しい嘘をついて。

 

楽俊は目を伏せた。

「ごめん。もういい、陽子。朝議に行って来い」

陽子の瞳が恍惚の色を浮かべるその寸前。

楽俊は陽子の身体を解放した。

「楽俊……………」

「それとも、ここにいるか?」

「……………っ!」

意地悪な問いかけだとは分かっている。

理性と本能を天秤にかけるような卑怯なことだとも。

「………………………」

しばしの静寂の後。

陽子が目を逸らした。

分かっていたのだ。

陽子が自分を選べないことくらいは。

陽子はふらふらと臥牀から立ち上がり、薄物を羽織った。

楽俊はその動作を緩慢に見送る。

つと、少女が振り返った。

その目には確かに、楽俊との時間への未練が存在していた。

「行って来いって。大丈夫。陽子が戻ってくるまでは、雁には帰らねぇから………」

陽子のぬくもりを体に刻みつけながら、楽俊は泣き出しそうに微笑む。

 

お前の身体を満たしたい。

この想いだけでいっぱいになるように。

他のものが入り込む、そんな余地のないくらい。

 

「この気持ちは罪なのか?」

ただ一人を愛する、それだけのことなのに。

 

(……………太陽が、なくなってしまえばいいのに)

 

ずっと夜ならば。

ずっと光が届かない世界ならば。

お前を抱きしめて眠りつづけていられるのに。

 

 

 

神である者に選ばれ、選んだこと。

その想いは、

 

傾国の恋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

了.


2002.4.11.












緋魚様から頂戴したSS「傾国の恋」



緋魚さんに「何かリクエストございますか?」と聞かれ、知り合って間もない時期だっつーのに
「アダルト☆楽陽のSSがいいですv」と力強く答え、そうして書いてくださったSS「傾国の恋」!!
知り合って間もない方にエロをリクエスするなんて(以下略)
ああ恐ろしい…自分の煩悩っぷりが恐ろしい…(ガクブル)自分グッジョブ★(反省の色ナシかい)

楽陽のエロに飢えていたというより、緋魚さんの楽陽のエロを拝読してみたかったんですよね!
楽俊像を明確に持ち表現されている緋魚さんの楽陽のエロは一体どんな感じになるんだろうと
興味津々だったのですが、案の定、というより…凄いものが贈られてくるとは分かっていたのに、
身構えていた筈なのに、あまりの素晴らしさにアテントプリーズv状態…!!失禁必至★

美しく艶っぽい、とても品のある表現は勿論、何に一番卒倒したかってやっぱりラスト!!
頂戴する前からただのエロじゃない作品だろうとは想像できたけど、まさかここまで…!!

萌え死ぬ…!!!

以来、ことある毎にエロをリクエストしてます。
だってねぇ?こんな萌える作品を拝読してしまったらまた読みたいJAN?(いい加減くたばった方が
いいよアンタ)

緋魚さま!素晴らしき作品をどうも有難うございました〜〜〜vvvv




 

 

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