今日もまた。

月もない闇夜を、仄かな光が浸蝕する。

(……………太陽が、なくなってしまえばいいのに)

腕の中で喘ぐ少女の瞳がぴくりと震え、微かな吐息を吐き出した。

………行かせない。

分厚い紗で遮って、天蓋をぴったりと閉じて、お前を抱く腕を決してゆるめはしない。

ずっと夜ならば。

ずっと光が届かない世界ならば。

お前を抱きつづけていられるのに。

朝議。

それは太陽が昇る頃に始まり、まだ小暗い頃に人を宮城に呼び起こすもの。

それは王もまた同じく、胎果の彼女とて例外ではない。

美しい翡翠色の瞳に去り難く愛惜の波をたゆたわせ、彼女を、

この胸の中から奪い去っていくもの。

     

空は濁った赤銅色に染まり始めていた。

もうすぐ日輪が無粋な光を雲海とこの世界の上に投げかけるのだろう。

惰性の律動に頬を紅潮させる様は艶かしい牡丹の花。

敷布の上に流れる紅色の髪は咲き乱れる曼珠沙華のよう。

手を伸ばし、触れるか触れないかのぎりぎりで白い輪郭をなぞる。

あえかに胸を上下させ、寄せられた眉はさざなみのように襲う快楽に

はしたなく声を上げることを耐え忍ぶ証左。

「………らく、しゅ…ん」

甘やかに僅かに擦れた声。

重く、きつく閉じられていた目蓋がゆっくりと開かれた。

翡翠にも似た宝玉の瞳。

凝視し想像していたにも関わらず、その美しさに思わず息を飲む。

「陽子…………」

「……楽俊、わたし……」

身体を起こそうとした陽子を、楽俊は抑えた。

逃げそうになった少女の背中を強引に引き寄せ、楽俊は陽子を動けないように

きつく抱きしめる。

「楽俊! 痛いよ…」

苦痛の悲鳴をあげる陽子に構わず、楽俊は陽子に深く口付ける。

身じろぎ一つ出来ず、陽子は僅かに眉を顰める。

陽子は抵抗はしなかった。けれど、困惑の表情は隠さない。

「楽俊……わたし、行かない…と…………やっ!…あぁぁ…」

薄紅色の唇から零れた言葉は、いつも残酷で。

唇を噛み、苛立たしい気持ちをそのままぶつけ、煽る。

「い、いや。らくしゅっ………くぅ…っ!……」

ぎり、と爪が喰い込む。

「あ。ああぁぁぁ……! …ひぁ…あぅ……ぅ……」

力任せに突き上げ、少女の中に生まれた余計なものを体外に追いやる。

(…………太陽がなくなってしまえばいいのに)

また貪るように深く口付けた。

ただ触れ合うだけの口付けにも怯えていた少女の唇はいつしか自然にそれを受け入れ、

ぎこちなく反応し恐る恐る合わせてていた愛撫にも応えるようになっていた。

瑞々しい唇を堪能し、首筋を甘噛み、昨夜つけた所有印に、さらにきつく印をつける。

陽子のすべらかな肌に印を残す。

それは確かに陽子を愛している証。陽子が愛されていると感じる場所。

それは麒麟の誓約にも似て。

「やだ、楽俊………!」

首筋にも浮き出た鎖骨にも、淡く膨らむ胸の上にもぽつりぽつりと赤く蕾が結ぶ。

強い光を宿す瞳は涙に濡れて潤んでいる。

ささくれ立った心に陽子の言葉に棘々しく突き刺さる。

「いや…? じゃあ、止めようか?」

「あ……ぁぁっ…」

ことさら意識して己が欲望をずるりと引き摺り出す。

翡翠の宝玉から涙が盛り上がった。

お互いに慣れた肢体。

震えた背筋の意味を、よもや気付かれないとは思うまい。

長くその身に埋め込まれたものを抜かれ、すぐには閉じぬ出口を求めてどろどろと

溢れ出る液体は、それを目にした者の新たな快楽を呼び覚ますのには充分すぎて。

「ふっ……んぅっ……」

塞がれた声は鼻にかかったくぐもった嬌声に代わった。

楽俊の細く、長い指は少女の形良いなだらかな双丘を包み込む。

桜色に染まった突起を避けて周囲と腹部を撫でると、常ならばうっとりと身を任せる

陽子も、今日ばかりは腰を浮かせてひくひくと身体を反らした。

無理もない。奥では中途半端に刻み付けられた火種が燻ぶっているのだ。

ふるふると苦しそうに首を振る。溢れた涙が頬を伝って流れ落ちる。

しっとりとした太腿の内に触れれば、ぞっとするほど艶めいた細い足が宙に浮く。

楽俊を望んで開かれた足に、しかし差し入られたのは右の腕だけだった。

「ら、らくしゅん………」

潤んで呼ばれた名前にも、楽俊は反応しない。

花の色の秘裂を指で辿ると、陽子は自ら誘ってその指を咥え込んだ。

待ち望んでいた異物を灼熱に融けきった胎内はやすやすと迎え入れ、

一瞬の安堵の表情の後、しかしすぐに失望の色が取って代わる。

「お前が、いやだって言ったんだ」

恨みがましく見つめる瞳に、もはや王気は奥深くにひそめられて。

「…ぅ………も、もっと………お願い……」

懇願するのは男に恋着するただの娘。

幾夜体を重ねても硬く閉じる蕾は一夜の交情に咲き乱れ、花弁の重たげな翳りは

憂鬱な甘美さを含んで溢れている。

「もうすぐ、朝議だろう?」

「お願い、楽俊………っ!」

切羽詰った嘆願は己が望む返答で。

楽俊は酷薄に笑うとまだ幼さの残る少女の身体を開いた。

「…………ん…ぁ…」

貫くと、強い圧迫感に押し戻されそうになる。無理矢理こじ開けるように押し進めると

陽子の腕が首に巻きついた。肩を強く掴まれる。

「んっ………あ……ぅく。」

声を殺して泣きじゃくる陽子の涙を飲み下す。

「ひ………や…ぁっ……あぅ、う……んぅ…」

止まらない呼吸。激しい律動。くぐもる喘ぎと抑えられた嬌声。

お前の身体を満たしたい。

この想いだけでいっぱいになるように。

他のものが入り込む、そんな余地のないくらい。

「この気持ちは罪なのか?」

ただ一人を愛する、それだけのことなのに。

(……………太陽が、なくなってしまえばいいのに)

ずっと夜ならば。

ずっと光が届かない世界ならば。

お前を抱きしめて眠りつづけていられるのに。

   

さやさやと上等な布地が床に触れる、滑らかな衣擦れの音がした。

「陽子…」

「あ、…はぁっ、あ、あぁっあと、少しっ……やぁ…っ!」

肩に桜貝にも似た爪が食い込む。

「いやぁ……楽俊、お願い、最後まで、最後までしてよぉっ!」

最後の一瞬を目前にしていた少女はがくがくと震えながら離れた楽俊の肢体を追って

むしゃぶりつく。

「……帰って来たら続きをしてやるよ」
   
「嫌だ。今、今じゃないとわたし、変になるっ……」

「迎えが来てる」

「楽俊っ…」

「主上」

低い声が扉の向こうから突き通ってきた。

「主上、朝議が始まります。御支度は宜しいですか?」

冷めた声。感情のこもらない、淡々とした口調。

「嫌だっ……お願い、らくしゅんっ……」

楽俊は最後まで言わせなかった。

唇を塞ぎ、今までに味わわせたことのない長く濃厚な愛撫を施す。

しばらくして、陽子の身体から力が抜けた。

瞳から光が失せ、恍惚と忘我の中を彷徨わせる。

「早く、帰って来い」

甘く蕩けそうに優しく楽俊は囁いた。

陽子はうっとりと頷き、楽俊の手によって服を着る。
 
 
 
 


夢見心地のふらついた足で、陽子は扉を開けた。

扉の前に、男がいた。

冷めた金の髪。世界に十二しかいない、神の獣。

「待たせたな。行こう」

どこかぼんやりと陽子は言い、返事を待たずに歩き出した。

景麒は頭を垂れ、後に続く。

その、最後の瞬間。

閉じられる扉の隙間から、景麒は楽俊を見た。

それは怒りと絶望に燃えさかる一瞥。

楽俊はその紫の瞳を真っ向から受け止め、薄く、

笑った。

明らかにそれと分かる交情の後の。陽子に染み込んだ若い男特有の甘く香ばしい匂い。

怨詛のある血液で病む麒麟ゆえ、血液でなくとも怨詛を込めた体液には同じく身体を蝕まれるのであろう。

欲しいのは一人の少女。

ただひたすらに。何もかもを失ってしまっても。


彼女を選んだ天を怨み、

彼女を欲した国民を怨み、

彼女に会わせた麒麟を怨み。



過ぎた思慕ゆえに

麒麟を失道せしめる。




それは、

傾国の恋。

     

   

   

   

     

     

     

     

   
  

了.

2003.5.16
.






緋魚様から頂戴したSS「傾国の恋 陰」



アダルト楽陽SS「傾国の恋」を頂いてから一年後
実はひっそり「傾国の恋」Black verを頂いていたのですよ!!!(鼻息荒)
アダルト度というか黒楽俊度が大幅にアップしているバージョンでっす!!
でも流石は緋魚さんというか…性描写なのに凄く美しいんですよね〜!
話はズレますが、「無限の○人」の作者、沙村○明先生のVampire Saviorのエロ同人誌を持っている
のですが、絵が美し過ぎてまさに芸術。エロなのに芸術なんですよね〜!
それと同じ感覚で文章や表現があまりに巧みで、エロなのに美しく切ないんです、
「傾国の恋」Black verは(*T▽T*)

てなワケでアタイもーー!!とBlack verのイラストを描いてはみてみたんですが、ものの見事に
露骨なエロになったよ?
最初は陽子の顔を隠してなかったのですが、あまりにエロ過ぎて隠してしまいますた……。

傾国の恋は二作品とも破滅臭がムンムンするのに何故こうも萌えるのか…(桃色吐息)
忘れられない体vにされてしまった陽子が楽俊に服を着せてもらっているという
一行だけでもう萌え…!!!

お聞きした話によると、本来「傾国の恋」はこちらがベースだったそうです
「けど流石にこれを贈るのはどうかと思って、『傾国の恋』の方を贈りました」とのこと…

知り合って間もない方にエロ作品をリクエストするような輩にそんな
気遣いは無用です緋魚さん(満面笑顔)

「傾国の恋」を頂戴した一年後あたりに「実はアダルト度が高い別Verがある」とお聞きした時、
烈火の勢いで「ちょっと…!!今すぐ恵んでくださいヨ!!Just now!!!!」と半キレぎみで
お願いというか脅迫まがいなことをするゲスな古谷さん
そろそろ地獄からお迎えがきそうな勢いです★
本当すみません、色々…(ガクブル)


緋魚さま、素晴らしい作品をどうも有難うございました〜〜〜vvv



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送